AtoPブログ~政策のヒントを目指して~

独り言・書評 ―紙と机の上で社会と政策と将来を考える―

本や論文を読みながら社会、政策、将来への洞察を見出しつつ、書評としての機能も目指すブログ。2018年12月リニューアル。不定期更新

土地問題はどこからか?:吉原祥子著『人口減少時代の土地問題』

 

 こんばんは、ブログで約束した月末の締め切りの約束をすっぽかしてすみません。

 自分は出版物に原稿なんて投稿したことない人間ですが、あれこれと面白いことに目を奪われていると記事を書く暇が...。しかし、今回は大変参考になったのもありますし、普段の問題関心に近い本を見つけたので紹介させて頂きます。

 

 

 

 この本は新書で200p弱しかないですし、スラスラ読める書きぶりなので是非一度手に取ってみてください。

 

 私がこの本を読んで問題関心を抱いた第一のポイントが土地情報のインフラ整備の酷さですね。読む前から私は日本全国でどこの土地が放置されているか分かるような電子地図情報が必要ではと漠然と思っていましたが、土地の所有者の情報(つまりは登記)と相続に関する情報や一定の面積の土地や農地の取引に関する情報が連動していないことをこの本に教えてもらって成程と思ってしまいましたね。土地のある所有者が亡くなって相続が発生しても、相続の基本となる戸籍がある本籍地とその人が死んだ土地の自治体にしか死亡届がいかないので、本籍地でも死亡地でもない土地が存在すると、その土地を持つ自治体は所有者が死んだことすら分からない。もちろん相続者も把握できない。

 この問題を考えるといかにアナログなままの戸籍制度が不便か分かりますね。パスポートを作った人なら分かりますが、だいたいパスポートの申請書の本体に付随して戸籍謄本または抄本の添付まで市民にやらせる必要は謎ですね。市民の出すパスポートの申請書に本籍地の住所を書かせて、行政が何も言われずとも戸籍の証明事項を確認すればいい話だと思うのですが、どうでしょう。取り寄せが発生する人には追加料金を取ればいい話でしょう? しかも、戸籍抄本の取り寄せとパスポートの申請で二回も来させる必要がなくなりますよね?

 もっと根本的には戸籍が紙ベースで本籍地に戸籍の内容のコピーを送付させてくる仕組みが不要ではないでしょうかね。戸籍には人によっては部落の出身であったか等のセンシティブな問題も含むので配慮は必要ですが、家族関係や国籍の確認のためのデータベースはあるべきだと思います。そしたら、相続関係の申請も相続者が戸籍の情報を集め廻って事実証明に骨を折る必要はないですし、本書でも指摘されている通り、相続者に被相続者の不動産を行政が通知してあげられるサービスができると思います。

 もっと自分の主観的な意見を書けば、制度利用の状況が望ましくない状況で放置されているのは行政の政策担当者の「サービス精神」が不合理なまでに欠けているからとしか言いようがないですね。利用者の目線に立ってサービスを合理的に設計するよう努めていくのは行政として当然であり、自分達も職場を出ればそのサービスの利用者になりうるのに、行政の都合や守旧性でサービスを不便にしているのはある意味で役人的アパシーですね。土地問題についても登記の問題や相続の問題に利用者視点で利用を考えられていたら、登記が申請されずに所有者不明の土地が急速に増えていく事態にはならなかったでしょうね。

 かなり嫌味たらしく書いてますが、理由はあります。それが以下の法務省の資料ですね。

http://www.kantei.go.jp/jp/singi/keizaisaisei/miraitoshikaigi/suishinkaigo_dai6/siryou5.pdf

 

f:id:atop_policyhint:20171107014409p:plain

 

 まず、個人情報保護法の観点から公開に後ろ向きなのは理解できますが、制度上想定されていないからという理由で個人情報を除いた上での地図データの公開の可能性まで一蹴するのは理由がないように思える。コスト上の問題と個人情報保護法の二点位しかマトモな理由がないように私は考えております。

 また、今回は農地の観点からの地籍図(登記情報がある地図)の公開の要望であったが、土地問題に直面している自治体や地域住民にとっても地籍図は政策を考える上で必要であるので、個人情報保護法の制約を守りつつも、例えば死亡した事が分かっている人の登記のまま放置されている土地の情報を提供することもありえると思います。相続者の情報がなければ故人の情報は個人情報ではありませんし。

 余計なことを言えば、法務省が情報化関連で後ろ向きなことは割と有名らしくて、以下の法務省の資料は一部界隈で揶揄され続けている文書です。

http://www.moj.go.jp/content/001236231.pdf

 

f:id:atop_policyhint:20171107023356p:plain

 

f:id:atop_policyhint:20171107023543p:plain

 

 とりあえず屁理屈つけてやらないみたいなこと言ってますが、DQNネーム的な振り仮名が戸籍に載ったら国語行政に影響があるあr…ねーよだと思いませんか。そもそもこの報告書は戸籍に振り仮名を載せる意味を全く検討していませんね。最初の理由の戸籍の振り仮名の変更に家庭裁判所の審査云々の意味が私にはまだわかりませんが、たとえば神木隆之介(かみき りゅうのすけ)の読みが「かみき たかのすけ」にするのに家裁の審判が必要とかいう話ですかね? 自分の漢字の振り仮名について本来の読み方と通称がずれている人は何人か知っていますが(鈴木寛さんなら「かん」や「ひろし」と)、普通はそんなにころころ変えませんし、戸籍になんと書かれようと日常生活で支障は出るんでしょうかね。

 税金の使い方について民主党政権期に役所を仕分けるみたいなことやりましたが、本当は行政サービスこそ吊るし上げるべきだったと思いますが、政治家も面倒な行政の手続きは誰かがやってくれるのか、市民の立場からズレているような気がします。

 書籍の紹介にやっと戻れば、土地問題については個人の所有権の問題について指摘されていますね。放置されている土地はもったいないですね。長年に使っていない土地、ましてや死んだ人の土地のまま放置された土地は後世の人々の利益を考えてパブリックにするべきですね。そこ再び大震災が来たら東日本大震災の復興の遅れのような土地の問題も再来するという指摘は恐ろしいですね。

 国土については国交省があるはずですが、彼らが仕事をするのに必要な情報は、サービス精神が欠けた法律家集団の法務省や、周辺的で非生産的な権益争いをやってばかりで自治体も含めた行政の情報基盤整備に後手後手な総務省のおかげで集まらないのかなとも思います。各省連携して土地の問題に取り組んでほしいのですが、連携する上で基本となる情報共有が今後加速的に進むかは不安ですね。

 もっと本書について知りたい人はぜひ書籍か、他の方のブログを探してみてください。それでは、また月末以降に。